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建国より建てられた王族の住まうそこには、長い年月を経ているのだから、当然、沢山の秘密が存在する。
今現在も例外ではなく。
その秘密は麗しき皇子の誕生から始まった。
―――十三年前―――
まだ、若き王はそわそわと落ちつがず、室内をうろうろと歩き回っていた。
「陛下。どうか落ち着きなさいませ」
そう諭されるのは何度目だろうか。
苦虫を噛み潰したように、マイラスはソファに腰掛けてはみるものの、数分も経たないうちに居ても立ってもいられず再びうろうろしだす。
何度繰り返しただろうか。
隣の部屋から一段と大きな叫びと共に、待ちに待っていたそれが聞こえた。
「産まれたか!」
周りにいた者全てから気の抜ける吐息を受け、マイラスは隣の扉を見つめた。
カチャリ。
開いた扉から現れた侍女の腕には、布に包まれた小さな赤子。
大きな声で泣いている事に、マイラスは目を輝かせた。
「姫君にございます」
恭しく差し出された赤子を受け取りながら聞いた言葉に、マイラスの輝いた眼は落胆の色へと変わった。
「またしても……姫か」
だが、次に期待すれば良いだけの話。
マイラスは産まれたばかりの三人目の娘を見やり、眼尻を下げた。
「愛妃にそっくりだな。将来が楽しみだ」
「まあ、陛下。気がお早いですわ」
侍女に子を預け、マイラスは大役を終えた最愛の妃の元へと向かう。
部屋の中は慌ただしかった。
お産の後処置の為だろうか。
だが、二度ともここまでではなかった。
「陛下!王妃様がっ…」
切羽詰まった声音にマイラスは奥へと急ぐ。
ベッドには蒼い顔をした王妃がぐったりと横たわっていた。
「セシリア!」
駆け寄り、その手をとった。
「…マ…イラ…ス…。ごめ…なさ…」
平時であれば夫とはいえ、君主の名を人前で口にした事はない。
最愛の妃のただならぬ事態に、マイラスは細い手を握った。
「しっかりしろ。謝る事は何もない。そなたは私に三人目の姫をくれたのだ」
「……いいえ…」
焦点のあっていない瞳から一筋涙が流れた。
「……何があっても離れないと…お約束したのに……許して」
「何を言う!休めばすぐに良くなる。気をしっかり持て」
「ご…め…な…さ……」
「セシリア!!」
目蓋が静かに閉じていく。
幾度名を呼んでもその瞳が開かれる事はなく、医師から告げられた言葉はマイラスの希望を打ち砕く。
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