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「はい、今日変わったところはですね……」
ヘレネが少し悩んでから止まる。
「どうしたの?何もないとか?」
「いえ、あった事にはあったんですけど、どうにも思い出せなくて……」
「むしろそれは”何も思い出せない”っていうのが症状だね」
ルーカスがメモにまとめてハンドサインを出そうとする。
しかし、それに答える者は居ないと気付いて辞めたのだった。
「他にはないですね、忘れているだけかもしれませんけど」
「とりあえず、忘れることが分かっただけでも良しとしましょう」
「そうですね!」
経過観察という名の談義が終わった所でいつもの時間が始まった。
「今日も診察でした!しかし、まだ呪いは解けていません!」
「私も尽力いたしますのでどうぞよろしくお願いします」
カメラに映るのも慣れてきた気がする。少なくとも最初の様な嫌悪感はない。
「まだまだ道のりは長いけれど、一歩一歩が積み重ねて……」
そこから先に言葉を紡ぐことさえ、彼女はできなかった。
「あれ、ヘレネさん?ヘレナさんっ!」
ルーカスがヘレネに寄り添う、汗を大量にかき、何よりも背中が熱い。
ルーカスは無意識に悟ってしまった。
もう、時間が無いことを。
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