序章

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序章

左に記すのは、裏通りで実しやかにささやかれる噂である。 街道筋の町で一番の呉服商・鶴乃家の、屋号に背負った鶴のように真っ白い漆喰壁で囲まれた、立派な蔵。その中には商売道具の反物や、鶴乃家の主人が港で買い集めた様々な唐物が所狭しと並べられているという。 しかし、蔵に留守番している品は、主人の買い物の中ではいわば二束三文の玩具同然。一番の目玉は、舶来のものを含めた瑠璃や玻璃、真珠、珊瑚の類である。それらは、馴染みの好事家にまた高値で売っているとか。 上物は主人が港から帰ったすぐあとだけ蔵にしまわれており、しばらくすれば全て出払って、来月まではまた蔵は玩具箱になる。 月に一度、五日ほど蔵に付けられる門番は、上物を守るために、わざわざ腕っ節の強い者が雇われているそうだ。
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