2章

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だんだん苛立ちが募り、千鶴は握った拳でどんと扉を殴りつけた。 すると、ガチャンと音が鳴った。蔵の鍵が開いた音だ。瞬間、千鶴の体が総毛立つ。 開けたのは間違いなく権蔵以外の者だ。あの男なら、絶対に返事をするはずだった。千鶴は息を呑んで飛び退いた。 (もし盗人とか人殺しだったらどうすれば……) 盗人や人殺しのせいなら、権造は今頃蔵の外に血まみれで転がっているかもしれない。心配をよそに、扉はぞろりと音を立て、ゆっくり開いていく。千鶴は扉の先を見据えながら後退った。 月は雲の陰になって、辺りは重たいほどの闇に包まれている。しかし、確かにそこには人影が見えた。 「ひっ」 ひとごろし、と叫びかけた千鶴の口を、その人影の手が塞いでくる。 (殺される!) 恐慌状態に陥った千鶴は精一杯の力で暴れるが、相手の力が相当に強い。声ひとつあげることができずに抑え込まれてしまう。月は雲の陰に隠れてしまっているらしく、真っ暗で相手の表情はおろか、顔もわからない。 「しーっ」 若い男の声だった。 「黙れって。何も殺そうってんじゃねえ、ちょっと蔵の中のものに用があるだけだ。ただし大声出したら痛い目見てもらうぞ」 盗人だ。 千鶴は青ざめた。     
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