2章

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縮こまって、何か助けになってくれるものはないかと横目で辺りを見る。扉の脇に権造が倒れているのが目に入り、途端に嫌な汗が噴き出た。 「ああ、心配すんな、死んでねえよ、気ィ失ってるだけだ。まあ縛ってあるし、しばらくは起きねえが」 千鶴の焦りを見て取ったらしい男が、そう声をかける。盗人にしては、存外優しい声音だった。たしかに、暗い中でよく目を凝らして権造を見ると、手足に縄がかけられ、猿轡まで噛まされているようだった。 しかし千鶴も、未だに口は男の手で塞がれていて苦しいし、組み敷かれたままで、身じろぎひとつ許されない。 「んっ……んぐ」 成る丈無駄に体重を乗せず、抑えれば確実に動きを封じることができる体の節だけを押さえ、力の入れ具合だけで自由を奪うようにしていて、如何にも喧嘩慣れ、仕事慣れしているふうだ。普段全く荒事に関わらない千鶴でもそれは察したが、鍛えてすらいない体にとっては、男が押さえつけているところがどうにも痛い。 怖いのと、息が苦しいのと、なぜおれがこんな目にあっているのかという理不尽への怒りも相まって、千鶴の目からぷわりと涙があふれた。 「お前っ……泣くな、泣くな!」     
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