2章

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しかし男の手は、千鶴の背中を優しくさすった。 「………え」 千鶴は恐る恐る目を開けた。 「大丈夫か? ゆっくり鼻から息すんだぞ、ほら」 背中を撫でる手は大きくて温かい。千鶴が言われたとおりにゆっくりとした呼吸を繰り返すと、段々楽になってきて、 「もう、だいじょうぶ……」 「悪かったな、押さえつけたりして。流石に、こんな女みたいに細い奴には酷いことできねえさ。」 千鶴は思わぬ展開に目を瞠った。どうやらこの盗人は千鶴に危害を加えるつもりはないらしい。その上、他所へ忍び込んでいる緊迫した状況であろうに、気さくに声をかけてくる。 「お前も宝の番か? にしては弱いし、頼りになんねえな」 「は? 宝の番?」 千鶴が素っ頓狂な声を出す。 「そうお宝だよ。……なあ、蔵ン中案内してくれよ。俺にはどれがいいモンかわかんねえからさ」 脅すふうでもなく、まるで友人にでも頼むような調子だ。 (変に刺激しても、こわいし) それに何より、男の様子に千鶴もすっかり毒気を抜かれてしまった。 「……いいけど、たぶん中にある中で一番高いのは金襴だ、重たいよ。この蔵にはそんな大したものは入ってない。嘘だと思うなら、いいよ、好きなものを持っていけばいい」     
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