3章

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3章

「さて、これから一緒に逃げるんだ。お互い素性を話すところから始めるか」 草木も眠るような時分から、二人は隠れ逃げるように町を出てから半刻ほど経っただろうかといったところで、辰之介はそう切り出した。 成る丈急ぎながら東の町へ歩を進めていたが、既に空は白み始めている。人の往来はない。 「俺は辰之介。辰でいいぜ。年は十九。普段は東の町の、郭町で見世の雑用だ。それと、近頃は金持ちの家から色々勝手に頂戴したりもしてる。最近向こうで取締が厳しくなってきたから、噂を便りにここまでやってきたのに、外れくじを引いたってわけだ」 「噂って?」 千鶴の問いに、辰之介はそれはいいんだよと照れくさそうに返した。促されるままに千鶴も話す。 「おれは千鶴。辰が盗みに入った鶴乃家の息子。年は十六。あとは……特にないや」 何しろ外に出ずに本ばかり読んでいたので、話せる種もない。色々と自由に動き回って、たとえ泥棒であろうと仕事をしている辰之介に羨望の心が湧く。 辰之介はそれを察してか、そうかと軽く返事をして話題を変えた。 「大事なことを聞き忘れてた。熱が出るのはいつ頃だ? そろそろか」     
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