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「たぶん、いつもなら……明日の夜くらいからかな」
「ふうん。ならやっぱ急がねえとな」
いけるかと問うて、千鶴が頷けばまた早足になった。息ひとつ上がっていないので相当な健脚なのだろうが、歩き慣れていない千鶴への気遣いはしっかりしていて、こまめに様子を聞いてくる。
「ねえ、辰は、俺の熱の理由、わかるんだろ?」
それを知ることが、千鶴が辰之介の手を取ったわけのひとつでもある。
辰之介は頷いて、しかしすぐに話そうとはしてくれなかった。
「全部、向こうに着いて、落ち着いてから話すさ。聞いたらきっと驚くだろうから、歩くどころじゃなくなっちまうぜ」
そう言って、彼は切れ長の目を細めて笑った。
千鶴は少し落胆したが、そのぶん期待も高まった。これまで何も教えられないなりに自分で考え、不治の病で気味悪がられているのかと思っていたが、そういうわけではなさそうだということを、蔵で千鶴の状況を聞いた辰之介の態度から察していた。謎の病でないなら克服する術もあるかもしれない。千鶴の胸は、自らの足で土を踏みしめる開放感と、これからの希望に高鳴っていた。
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