4章

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4章

千鶴は朦朧とした意識のまま、布団の上に寝かされた。どうやらここが辰之介のねぐららしい。盗賊の根城にしてはえらく質素で、雑多なものがない。代わりにたくさんの紙が散らばっていたが、辰之介は千鶴を寝かせるなりそれらをかき集めて隅に寄せてしまった。 寝かされた布団はいくつも継ぎがあてられているし、千鶴の使う布団の半分ほどしか厚みがないが、辰之介の背中で感じたものと同じ匂いがする。 待ってろと言い残して部屋を出、少しもしないうちに慌てて帰ってきた辰之介の手には、火の付いた蝋燭を挿した燭台が握られていた。 燭台を置き、枕元に座した辰之介が、ほんのりと汗ばむ千鶴の額に手を当てる。 「辛いか?」 「……すこし」 額を撫でる手は、辰之介にとっては何気ない行動だったに違いない。しかし千鶴にとっては、熱を出したときにずっと夢見ていた手だった。一人で籠もるには広すぎて寒々しさを感じてしまう蔵の中で、綿が目いっぱい詰まった布団にくるまりながらも、ずっと欲していた優しい手だ。 「欲しいものがあれば何でも言えよ。水が飲みたかったら貰ってきてやる」 そう言いながら、辰之介が水を求めて立ち上がる。     
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