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(行っちゃう、いやだ……!)
千鶴は言いようのない不安に襲われて辰之介の服の裾を掴んだ。
「いかないで……いっしょにいて、さわってて」
消え入るような、それでいて必死に縋るような声が出て、千鶴は己の声でありながら驚きを隠せなかった。気恥ずかしくすらある。辰之介も驚いた顔をして、しかしすぐに観念したのか再び千鶴の枕元に座り込んだ。
「……仕方ねえな。朝まででも付き合ってやる」
そして、今度は千鶴の頬に手を当ててくれる。その体温が心地よくて、千鶴はうっとりと目を閉じ、自分の手を重ねて頬ずりした。
はあ、と熱い吐息が漏れる。
辰之介に触られたところから何か綺麗でぬくい水でも流れ込んできているみたいに、すうとして気持ちいい。だが熱は収まるどころかさらに上がっているようだ。千鶴の体の、胸あたりで熾火が燻る。
「ね、もっと……」
たくさん触ってほしい――千鶴はそう言いかけて、目を開けた。
辰之介の鳶色の瞳と、視線が絡んだ。彼の目も熱を帯びているように見えたのは、揺れる蝋燭の炎のせいだろうか。
その目を見た途端、ずくりと体の奥で熱が弾けた。
「っふあ……」
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