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謝るの、と言いかけて、千鶴は体を跳ねさせた。
少し節くれだった辰之介の指が、するすると下へ落ちていき、腰を撫でたのだ。
「ん、う」
こそばゆい、とは言いがたい。もどかしいようなそれに悶えていると、帯が取られた。ぱらりと袷が開き、白く薄い肉体が顕になる。火照った体が外気にさらされて身震いした。
性に疎い千鶴でも、その行動が何を意味しているかはわかる。男同士での性交が行われているのも、本で知っていた。それでもまさか自分がその行為の渦中に投げ込まれるとはつゆとも思わなかった。
それに、閨事で漂う空気が、こんなに湿度が高く濃密で、重く淀むように千鶴の喉を詰まらせてくるものとも知らなかった。息がしづらいくらいに感じて、喉を開く。
辰之介の手は千鶴の腹を触れるか触れないかというところで滑っていく。
「嫌じゃないか?」
恐る恐る聞く声音に、そういえば自分が欠片も嫌悪を感じていなかったことに気づいた。あるのは、知らない感覚への怖さだけ。それを除けば、むしろもっと辰之介の温もりを感じたいとさえ思っている。辰之介の温度があれば、怖さも克服できそうとさえ。
このもどかしさの先を知りたい。
「いやじゃない……。もっと、さわって」
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