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顔は見えないのに、密着した胸からどくどくと鼓動が伝わってきて、辰之介も気持ちが高まっているのだと安心した。脇腹を撫でられて、下腹の疼きがさらに大きくなる。その手は千鶴の腰をしっかりと捕まえて、くたくたに力の抜けた体を少しだけ起こさせた。
「千鶴……」
熱っぽい囁きが千鶴の鼓膜を揺らす。辰之介に耳朶を食まれ、千鶴はあえかな声をこぼした。
辰之介の唇はつうと下へ滑り降り、首筋をゆるく食む。確かな快感に、慣れていない体はびくびく震える。
「や……ん」
辰之介は深く息を吐き、切れ長の眦を下げて、苦しげに懇願する。
「なあ、咬みたい……咬ませてくれ。お前のここ」
「あっ」
そして、熱い血の通う首に口づけた。
「ああ……くらくらする。もう我慢できねえ、なあ……」
舌が項をぬるりと這う。辰之介の唇が触れたところは溶けるように熱く、寒気にしては甘すぎる感覚が、背中をぞくぞくと這い回る。ついに怖さなどどこかへ行ってしまい、気持ちいいが勝って頭を塗りつぶしてゆく。ついに千鶴の口は別の生き物になったみたいに懇願の言葉を紡いだ。
「咬んで……っあ」
言い切るか言い切らないかわからないうちに、千鶴の首に歯が立てられる。咬まれたところから毒が回るみたいに、快感が全身を駆けた。
頭の奥に火花がぱちぱちと散るようで、目眩がする。
「やあっ、だ、めえ」
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