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少し言いづらそうに、しかしはっきりと、千鶴に伝えようとしてくれるのがわかる。
「いったん咬まれちまえば、襟巻の色香は、抑えたっていくらかはどうしても漏れてくる。それに、襟巻を倡妓や妾として求めてる奴も多いから、拐かしも少なくない。お前を閉じ込めてたのは、たぶん、可愛い息子がどこの馬の骨とも知れねえ奴に手篭めにされたり、攫われたりするのを避けるためだろう。親心だよ」
この六年間、考えてもみなかった言葉が辰之介の口から出て、一瞬意味すらわからなかった。
「親心……」
「たぶんな。それに、逃げたら連れ戻されたんだろう? 本当に襟巻が家族にいるのが嫌なんだったら、逃げたときに放っておくか、すぐに嫁に出しちまえばいいんだ。襟巻なら貰い手なんてごまんと居る。それをしなかったなら、お前のことをどうしたら一番いいのか考えて……ちょっと考えすぎたんだろうな」
たしかに、どれだけ逃げても連れ戻された。そのときはなんて酷いと思っていたけれど、子供のひとり歩きは危ないものだ。身を案じていてくれたと思っても、不思議ではない。
「六年の間にどこかでねじれて、歪んじまったんだよ、お前と家族は」
「……そっか。ねじれたのをお互い直そうとしなくて、そのままだったんだ」
「おう。……って、おい!」
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