5章

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ちらりと千鶴の首元を見る。 「……目の毒になるとは思ってなかった。油断したぜ」 ばつが悪そうにする辰之介の様子がやけにかわいらしくて、千鶴は笑った。笑えば涙は落ちて、視界が鮮明になってゆく。 千鶴がゆるく笑ったのを見て、辰之介も、ぱっと明るい太陽のような笑顔をみせる。頬に落ちた涙も、大きな指で拭ってくれた。 「おう、笑ったな。良いことだ。……落ち着いたら、お前と一緒に行きたいところがあるんだ。ついでに挨拶もしといたほうがいいだろう」 「挨拶?」 「この藤見屋のお姫様だ。きっとお前の助けになってくれる。それにこのままじゃいらんねえから、襟巻を借りてこよう」 辰之介の指が天井を指さした。
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