6章

3/14

68人が本棚に入れています
本棚に追加
/89ページ
倡妓と言われて納得した。起き抜けの無防備な姿とはいえ、凄絶なくらいの色気だ。 「昨日燭台も借りたところに度々すまねえんだが、千鶴も襟巻なのにひとつも自分の首に巻くもんがねえ。しばらく貸してやってくれねえか」 とろとろとしていた目が、千鶴も襟巻、というところを聞いた途端にぱっと開いた。 「ええっ」 律は辰之介と千鶴を交互に見くらべた。 「……いいよ、好きなのを持っていきな。返さなくってもいいよ。そこの箪笥の、一番上。蝶が彫ってある抽斗」 「おお、悪いな。ほら、行ってきな」 言われるままに抽斗を開けると、様々な素材や意匠の襟巻がいくつも詰められている。 考えて、あまり目立たなさそうなものを選んだ。木綿に紺で模様を染め抜いた、手ぬぐいのようなものだ。 律が布団から声を投げかけてくる。 「そんなんでいいの? もっと綺麗なのたくさんあるよ」 「いい」 手に取った襟巻を、ふわりと首に巻いてみる。何も変わった気はしないが、これで辰之介の言う「護身」ができているのだろうか。 「こら」 いつのまにか隣に来ていた辰之介が、千鶴の頭に軽く拳骨を降らせた。 「ありがとうくらい言え」 「……あ、ありがとう」     
/89ページ

最初のコメントを投稿しよう!

68人が本棚に入れています
本棚に追加