6章

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言われてはっとした。ものを貰って、感謝の言葉を述べるなどいつぶりだろうか。家で、買ってもらったものは何であれ当然として受け入れてきた千鶴には、新鮮な言葉だった。 「いいえ、どういたしまして」 律がにっこりと笑う。 「ね、辰之介。この子とお話したい。倡妓じゃない襟巻なんて久しぶり」 「ん? ああ、好きなだけ話すといいさ。俺はちょっと、御主人に話を通してくるよ」 そう言い残して部屋を出ていく辰之介の背中に、律は俺の名前出していいからねと声をかけた。 「ここの御主人は、辰之介には息子みたいにして厳しいんだけど、俺には甘いの。だから俺が関わってるって知ったら、きっと大丈夫。御主人もいい人だから、きっと千鶴に良くしてくれるよ」 緊張してがちがちに縮こまる千鶴に、優しくそう言った。顔だけでなく声まで鈴の音のように綺麗だ。 家の者以外と何年も話していなかったから、どう接していいのかわからない。辰之介相手には、出会った状況があまりに特殊だったとはいえ、なぜだかすぐに打ち解けたのに、他はまだ、どうにもだめらしい。 声のひとつも出ない千鶴の心情を幾ばくか察したのか、律は寝床から起き上がって、鏡台へと千鶴を誘った。 「朝の支度をしたいから、手伝ってくれないか?」     
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