6章

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「……っあの、俺は、商人の子で……その」 優しい声に問われて、咄嗟に言葉が出てこなかった。律はくすくす笑って続ける。 「俺から話そうか。俺はね、親に売られてここに来たの」 突然出てきた「売られる」という言葉に、千鶴はぎょっとした。何よりそのえぐみに溢れた言葉が、この綺麗な唇から、いたって普通の日常の会話として飛び出てきたことに。 「襟巻の子はさ、貧しい家の子ならたいてい熱が出たときにすぐ妓楼に売り飛ばされるの。やっぱり、色ごとに向いてるからね。高値で買われる」 もちろん人身売買なんて表沙汰にはできないから、年季奉公の先払いって形だけど、と付け加える。 「俺の家はね、西の都でお役人をやってたんだけど、ある時父が不正をしてるんじゃないかって疑われて、放逐されて……。本当にしてたかは、俺にはもうわからないけど、そこからはもうてんやわんや。母はいつの間にか実家に戻って、俺は父にくっついてこの城下町まで来た。ちょうどその頃、俺が襟巻だっていうのがわかって、厄介払いみたいにここに売られたのさ」     
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