6章

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なんということはない口調で話す律の顔は、鏡越しに見てもやはり口調と変わらず穏やかで、自分の中で既に飲み下した出来事なのだろうということを察させた。 「でも、そんな、親が人買いに子供を売るなんて……。ひどい」 人攫いへの復讐物語に出てきたあの親は、攫われた子供たちを思って毎日泣いていた。読み終えた千鶴は、清右衛門たちは自分がいなくなったら泣いてくれるだろうか、泣かないだろうな、よその親が羨ましい――そう考えて鬱々としていたのに、世には自ら進んで子供を金に換えた、あとは知らん振りの人間が居るという。 恐怖と、それにやりきれない怒りを感じて、千鶴は唇を噛んだ。 「貧乏人の子供は、襟巻に限らずそんなのが多いよ。千鶴のお家が商家なら、奉公人の中の何人かは、そうやって来た者かもしれない」 「え……」 自分の家の敷居を跨いだ外の話だけではなく、これまで閉じ込められていた狭い世界の中にも、そのような惨い話があったかもしれないというのか。千鶴は青くなった。小さい頃は遊んでくれた番頭、よく無理を言って困らせた権造、何も言わないなりに、必ず飯時には千鶴の食事の支度を整えていた下女中、他にもたくさんの奉公人たちの顔が浮かんでは消える。 「……あの、律……さんは、自分を売った親のこと、恨めしくないの?」     
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