6章

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聞いてはいけない質問かもしれない。でも、どうしても聞かずにはいられなかった。律は少し驚いた顔をしたが、すぐにまた笑って口を開いた。 「律でいいよ。ううん、そうだな……。恨めしいと思ったことはあるよ。売られてすぐとか、水揚げのときとか、あんまり嫌すぎて唇が真っ白になるまでずっと唇噛んで。いつか売れっ子になってお金も人もたくさん動かせるようになったら、殺してやろうかとか考えてた」 さらさらと話していくけれど、これまで順風満帆に生きてきた若者が突然零落して花街で体を売るまでには、様々な思いや葛藤があったに違いない。それを示すように――おそらく無意識なのだろうが、千鶴の髪を整えていた手がはたと止まって、櫛をぎゅうと握りこむ。 「でもね、ここで働いて、同じような境遇の子を含めた色んな人と会っていくうちに――子供は、ある程度の期間親から何かを受け取れるだけで、それを以て自分を正道に進めるか邪道に進めるか、そこからは子供の責任だと思ったの。親から受け取ったものが悪いものだったとしても、これが悪いものなんだ、じゃあ俺はこんなものを避けなきゃっていうふうに学んでいこうって。だって親の悪行のせいで自分まで醜い人間になっちゃったら、悔しいだろ?」 だから人殺しになるのはやめたといって、ころころと笑う。     
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