6章

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「もちろん、親はできるだけ良い糧になりそうなものを子供にあげたほうがいい。それが親の責任。……俺の親は、もう自分からはやれるものがないって、お役御免を願い出たのんだよ。だから、俺もそれまでに受け取ったものでやりくりして、なんとか正道を歩んでるつもり」 千鶴は、家にいる間ずっと不満を感じて鬱屈していた自らと、父母の関係を思い返していた。彼らは、もう千鶴に渡し終えてしまったから、親子の関係を変容させたのだろうか。 「ああ、でもね、お武家なりの教育は受けさせてもらってたから、この商売でも貴な方々のお相手を努めやすくって助かってるよ。そこが一番即物的に感謝したところだなあ」 自分を売り飛ばした親に向かって、感謝という言葉を口にできる律の心は、千鶴にははかりがたい。それなのに、律の表情はどこまでも優しく透明感にあふれて見えた。 「……でね、俺もそんなのだから、他の襟巻のことが気になってさ。珍しいしね。酷い目にあってる子が多いから、この町に来た子の助けになれるようにしてる」 律は止めていた手を再び動かしだし、鏡台の抽斗からまた竹筒を取り出す。中に入っているのは椿の油らしい。少しだけ手に取って薄く伸ばし、千鶴の髪に馴染ませる。 「俺と辰之介で、襟巻でもそうでなくても、売られてきたばかりの小さい子の世話を焼いたり、足抜けしたがってる子がいたら話をつけにいってやったりしてるんだ」     
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