6章

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「そっか。辛かったろうね……。ずっとお嫁入りもなしに、売られもせずに閉じ込めっれたきりだったの?」 「うん。辰は、どうしたらおれにとって一番良いのか考えすぎたんだろうって言ってた。おれも……そうだったらいいなと思う」 千鶴がそう絞り出すと、か細い、切ないような声色になって恥ずかしくなった。その気持ちをふわりと覆うように、律が優しく背中を抱く。 律も、切なげに眉をひそめていた。 「厳しいことを言うけれど、俺は、こじれた後はあんまり変に期待しすぎないほうが良いと思う。……売られてきた子の中で、決められた年季を勤め上げて親元へ帰っていった子もいたんだけれど――すぐにここに戻ってきたから」 詳しくは語らないが、どういったことがあったのか、想像に難くはなかった。たしかに、全てが千鶴の思い望むとおりで、両親はまだ千鶴を愛しているとは限らないだろう。今頃厄介者がいなくなったと清々しているか、良い妾の買い手があったのにと地団太を踏んでいることだって、あるかもしれないのだ。 「辰之介がここに連れてきた以上、千鶴はここに留まるのも、家に帰るのも自由だ。でもどうか、心が傷つかないようにね」     
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