6章

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千鶴は頷いた。両親が自分をどうしたかったのかは気になるが、とにかくしばらくはこの花街に身を隠して、外の世界を学ぼうと決めていた。ここには、本だけでは知ることができないものが多すぎる。 父母に再び会うかは、それから決めても遅くないはずだ。 身支度をすっかり整えてもらった千鶴は、律に向き合って礼を言った。 「どういたしまして。困ったこととか、聞きたいことがあったら何でも言ってね」 久々の外で、初めての大きな町で、初めて花街に来た千鶴には、聞きたいことは山のようにあるはずだが、何より一番始めに浮かんだのは辰之介の顔だった。 (辰のこと、知りたい) 肌を合わせたはずなのに、どこか測りかねるところやはぐらかされたりすることがある男だった。なぜ千鶴を連れ出したのか、とか。 辰之介と親しいらしい律に聞けば、当人は教えてくれなさそうなことも、教えてくれるだろうか。 「あの……辰もここに売られてきた子を助けてるって言ってたけど、辰も、律と同じで襟巻なの?」 律にとっては予測していなかった質問のようで、一瞬拍子抜けしたような顔をしたが、赤い唇はすぐに答えをくれた。 「ううん、辰之介はね、九重」 ここのえ。 知らない言葉が出てきて、千鶴は自然と復唱していた。 律はやっぱりなとでも言うように、腕を組んでにやける。     
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