6章

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「辰之介ってば、襟巻のことは教えても、九重のことは教えなかったんだね」 辰之介にとっては隠しておきたいことなのだろうか。 「九重って、なんですか?」 「九重は、人の上に立つ人だ。仁義礼智忠信孝悌の八徳備えた人の上をいくようだから、九重。頭もいいし体も強いし、何より人を従える、人望というか、威光みたいなものがある」 律の言葉に、ごく短いものではある辰之介との道中が思い起こされる。触れたときの温かさや不思議な心地よさが、その九重の力というやつだろうか。 (たしかに辰之介に頼まれたら誰も断れなさそうだな……) 彼の笑顔と視線には、何か人を信じさせてしまうような力があるようにも感じる。千鶴もその目に射抜かれて、蔵から抜け出してきたのだ。 「中でも九重の力に従わされやすいのが、俺ら襟巻」 律の声色が、従わされる、という部分に少し性的な含みを持たせていることは、尋ねずともわかった。 「九重が"その気"になったら、襟巻は抵抗できない。逆に、九重も俺たちの色香に敏感。……ふふ、襟巻を女にするのは、九重の生き物としての役割なのさ。身に覚え、あるだろ」     
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