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いたずらっぽく笑った律は、自分の首の後ろをとんとん、と叩いてみせる。千鶴はしばらくきょとんとしていたが、その意味がわかってみるみる赤くなった。考えてみれば当たり前だが、髪を梳かれたときに噛み跡を見られたのだ。
しかし、昨夜のこれまでと違う熱にも、納得がいった。蔵で熱を出していたときに世話をしてくれた者たちが妙な気を起こさなかったのは、彼らの中に九重がいなかったから。そして、九重である辰之介は千鶴の熱に誘われてしまい、首を咬んだのだ。
「辰之介は、自分が九重だってあんまり言いたがらないけど――自分の性質を使って千鶴に手を出しちゃったのに、教えないんじゃ不公平だろう? 九重の力のせいだって言わなかったら、まるで千鶴がただの淫乱みたいじゃないか」
昨夜の情事を見たかのように律が言うから、千鶴はますます赤くなる。
「あとね」
律は千鶴を手招きして、こっそりと耳打ちした。
「俺たち、九重に抱かれたら、すぐ孕んじゃうから。気をつけるんだよ」
千鶴は今度こそ顔から火を噴くのではないかと思った。茹で蛸のようになった千鶴を見て、律は心底愉快そうに笑っている。
何も知らない辰之介の、おおい、千鶴もここに住んでいいってよ、というのんびりした声が階下から響いた。
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