7章

1/12

68人が本棚に入れています
本棚に追加
/89ページ

7章

律は、これから昼見世の支度があるらしい。千鶴が辰之介に連れられて藤見屋を出ると、抜けたように明るく真っ青な空が出迎えてくれる。少し暑いくらいで、慣れない襟巻を巻いた首が汗ばむのを感じた。 朝四つにもならないというのに、人通りは多い。千鶴はてっきり、郭町というのは夜ばかり栄えるものと思っていたが、昼こそ上客が集まるそうだ。 「昼見世には、昼にあくせく働かなくてもいいお大尽たちが来るのさ。だから律は、昼のほうが忙しいくらいだ」 辰之介いわく、この城下町にはいくつか郭町があるそうだが、桜花街は中でも一、二を争う華やかさを誇るらしい。たしかに軒を連ねる建物はどれも立派で手入れも行き届いており、町の繁栄を示していた。 町の名の由来は、町門の脇にそびえる、丈が五十尺ほどもありそうな桜の木で、桜花街のどこからでもその立姿を見ることができる。花はもうとっくに散り、緑の葉を目いっぱいに茂らせていた。 桜花街の大通りにはその桜の木に負けないほど生き生きとした人々が行き交っている。仕事は休みなのか、二、三人連れで出歩く妓女や、酒を売りに来たらしい荷車引きの男と、それの相手をする妓楼の男衆。     
/89ページ

最初のコメントを投稿しよう!

68人が本棚に入れています
本棚に追加