7章

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もちろん、昼間から春を買いに来た者たちもいる。それらの視線の奥に、朱に塗られた檻のような格子の奥に、婀娜っぽい格好をした男女が並んでいる様は、さすがにぎょっとした。ほとんど動かないので、なんだか人形が並べられているように見えたのだ。 しかし、辰之介が手を振ると息を吹き込まれたように彼女らも手を振り返して、隣の者たちと口々にお喋りしあっていた。中には、男女関わらず首元に襟巻がある者が混ざっている。花街や倡妓というものと関わりが無いあまりに少し怖い気持ちもあったが、律といい、やはり彼女らも血の通った人間だし、千鶴と同じ性質を抱えた者もいるのだ。 そして、道行く妓女も商人も男衆も、皆が皆辰之介に声をかけていく。千鶴はそのたびに辰之介の後ろへ隠れるようにするのだが、辰之介も都度引っ張り出して、千鶴のことを街の者に紹介していくのだった。紹介された者は必ず千鶴の首元を一瞥するが、それからは何も触れずに、よろしくなあとと言って辰之介を交えて軽く世間話をして去っていく。 「すごい。辰、皆と知り合いなの?」 そのようなやり取りがゆうに十は超えたところで、千鶴は辰之介に尋ねた。藤見屋を出たところからその調子なので、ほとんど歩みを進められていない気がする。 「ん、まあな。色々なところを手伝ってるから。それに今日はよそ者連れだし目立つんだろ」 よそ者と言われて、びくりとした。何か気に入らないところがあって爪弾きにされたらどうしよう。     
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