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千鶴が呆気にとられて見ていると、満足したらしい子供たちは辰之介の体から降りて、今度は千鶴に興味を示した。ぱっちりとした六つの目に見つめられる。
「ねえ辰にい、こいつ誰?」
「こいつとか言うな、千鶴だ。昨日からここに来た」
「あの……よろしくね」」
「ふーん。ねえ千鶴、これからどっかの見世に行くの? どこ? 藤見屋?」
千鶴の存在を、あっさりと受け入れる。やはり、ふらりと現れる他人に慣れているのだろう。
妓楼に上るのだと思っているらしい子供たちに、千鶴は頭を振る。どう説明したものか迷った。何しろ、自分がこれから何をするのか、千鶴自身にもわかっていない。助け舟を出したのはやはり辰之介だった。
「こいつは行かないよ。俺の手伝いだ」
「じゃあ、俺たちの家にも来るようになる?」
「おう、そうだな」
俺たちの家ということは、この三人は兄弟なのだろうか。それにしては、三人とも似ていない。
「ねえ、今から家に来てよ! 団扇づくりも草履づくりも飽きちゃった」
「あ、お前ら、それが嫌で抜け出してきたな」
三人が、ばれたとでも言うように顔を見合わせたその様子がかわいくて、千鶴は思わず笑ってしまった。
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