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三人に導かれるままたどり着いたのは、小さな棟割長屋だった。部屋もごく狭いだろうと思われるような代物だが、縁に手ぬぐいがかけられた井戸もあり、しっかりと人が住んでいる痕跡が見える。
木戸をくぐると、三人が大声を張り上げる。
「おおい。辰にいが来たよ」
その声が響いた途端、長屋の部屋ひとつひとつから大勢の子供たちが飛び出てきた。
二十人はいるだろうか。ほんとだ辰にいだ、久々だね、その子だあれ、お土産はないの――口々に喋る子供たちに、辰之介と千鶴はあっという間に囲まれてしまう。
どちらかといえば男児のほうが多いだろうか。年齢は、上は千鶴より少し若いくらい、下は二つくらいの者まで、他の子供に連れられて出てきている。
「久しぶりだなあ。ちょっと仕事に出てたんだ。息災でいたか?」
仕事というのが、千鶴の家に忍び込むことだというのは、この子らは知っているのだろうか。失敗したけれど。
そう思ったが尋ねるわけにもいかず、とりあえず自分に興味津々の彼らと喋らなくてはいけないと思って、一番先に脳裏に浮かんだ疑問を口にした。
「お父さんや、お母さんは? みんな仕事?」
千鶴がそう言った途端、辺りがしん、と静まり返った。さっきまで大いに騒いでいた子供たちもぱったり黙りこくってしまう。一番年長らしい青年が慌てて前に出た。
「あの、俺たち皆捨て子なんです。だから、親はいないんです」
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