7章

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辰之介は、遊びたい盛りの子供たちに連れ出されて外で相手をしている。その笑い声を聞きながら、千鶴は佐月に教わって油紙に糊を塗った。 手先の起用な者は紙を貼る係、指先を使うのがあまり得意でない者や小さい子供は外に出て団扇を回収したり、古い紙が剥がしやすいように水に付けたりと、分業してひとつのことを進めているそうだ。 この長屋では、他にも煙管の管の掃除や、時折算盤の修理も請け負うと言っていた。桜花街ではどれもよく使うから、需要も高いらしい。 佐月は小さい子に教えるので慣れているのか手際よく指導してくれて、千鶴もなかなか上手に団扇を貼ることができた。かざすようにして、不備がないか隅々まで見直してみる。 「あの。千鶴さんは、辰にいと恋仲なんですか?」 突然の質問に、千鶴は面食らって団扇を取り落とした。小声であったから、お喋りをしながら作業に夢中になっている幼い子たちには聞こえなかったらしい。少しほっとしながら、千鶴も小声で答えた。 「違う」 と思う、と、心のうちだけで付け加えた。体を重ねたのは確かだけれど、律の言うことが本当ならば、あれは九重と襟巻としての本能に狂わされた結果だ。それに、辰之介も事後に「忘れてくれ」と言っていた。 千鶴の胸がちくりと痛む。 佐月はその逡巡を知らずに言葉を返した。     
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