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「そうだったんですか。ここだと番もいなくて妓楼の人でもない襟巻って見ないから、てっきり……。ついに辰にいが恋人を連れてきたんだと思って、ちょっと嬉しかったんですけど」
まるで身内の恋愛話をしているみたいに、はにかんだ顔をする。
「辰にい、律さまとすごく仲が良いし、やっぱり律さまと恋仲なのかなあ。倡妓の恋愛は御法度だから、直接聞くわけにもいかないし」
律と恋仲。千鶴ははっとした。
おかしいことではないだろう。実際、とても親しげに言葉を交わしていたし、何より律は美しい。辰之介が惹かれても不思議ではない。
ああ、律さまは藤見屋の方で……もう会われましたか、と問われる。返事はしたが、律と辰之介のことで頭が埋め尽くされてなんだか上の空な声しか出てこなかった。
「辰にいにはすごくお世話になってるから……いつも様子を見に来てくれるし、それに」
ふいに、佐月が言い淀む。
「……この間、長屋の金を盗られちゃったときも……」
千鶴は急に現実に引き戻されたような心地がした。
「盗み? 捨て子のための金を?」
人のすることとは思えない。佐月は、自分が管理していた隠し場所をいつの間にか知られてしまったらしいと言った。
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