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「怖くて誰にも言えなかったけど、辰にいが、様子がおかしいってすぐに声をかけてくれて。すっからかんになったところに、いつもくれるぶんに足してこっそり金子を足してくれたから、なんとか皆お腹をすかせずにこられた」
佐月の声には、感謝と憧れが滲む。
「だから早く幸せになってほしいし、俺も恩返しのために一所懸命に働こうと思ってます」
笑いかける顔は、どこまでも純粋だ。
「……辰之介はおれのことも助けてくれたし、きっと因果が巡ってくるはずだよ」
なんとなく、辰之介が盗みを働いていた理由が分かった気がした。
千鶴がひとつ作る間に三つも団扇を完成させてしまった佐月は、他の子供たちの様子を見て、困ったところがないか確認し始めた。
おそらく千鶴よりも年下であろうに、この二十人ばかりの大家族の長兄として頑張っている。千鶴は我儘を言って人に頼り切りだった自分を省みて、少し恥ずかしくなった。
「できたか?」
辰之介が、子供たちにまとわりつかれながら部屋に帰ってきた。
「うん。ほら、見て」
千鶴が出来上がった団扇を見せると、辰之介は満足げな顔をして千鶴の頭を撫でた。髪がくしゃくしゃになるのに、自然と笑みがこぼれる。
どきどきと胸が鳴るくらいに心地よいのは、千鶴が褒められるのに慣れていないからだろうか。
「佐月、教えるのうまいだろ」
「おれよりずっと大人みたいだった。いくつなの?」
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