68人が本棚に入れています
本棚に追加
「あいつは十四。捨て子はこの長屋で育って、だいたい十頃になると里子に貰われていくんだが。佐月は子供たちが心配だからって、ここに残りたがったんだ」
幼い子が団扇の古い紙を剥がすのを手伝ってやる佐月を、辰之介は目を細めて見ている。その顔は、自慢の弟だ、と言っているような気がした。
そのとき、突然少年が外から走ってきて、大声で叫んだ。
「これから律さまの揚屋入りだって! 見に行こうよ!」
部屋中がわっと湧き上がって、皆一目散に駆け出していく。子供が集まるとまるで嵐だ。部屋にはもう千鶴と佐月と辰之介、そしてずっと辰之介の足にかじりついている子しか残っていない。
いや、まだ残っていた。少年が一人、部屋の隅で座り込んでいる。
ぽつんと残された彼は、真剣な、しかし冷めきった顔で黙々と草履を編み続ける。
「行かないの? 皆もう行っちゃったよ」
「くるなっ!」
千鶴が声をかけて歩み寄ると、少年は一瞥もくれずに言い放った。
「襟巻は淫売だから、近づいたら悪いものが伝染るから、一緒にいちゃだめだって、おっかあに言われた。だからお前にも、律って奴にも近寄らない」
「…………」
生々しい言葉の刃が千鶴に突き刺さって、思わず言葉が出なかった。
すぐに辰之介と佐月が彼を咎めようとしたが、それより先に辰之介の足元にいた少年が怒りを露わにする。
最初のコメントを投稿しよう!