7章

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「あいつは十四。捨て子はこの長屋で育って、だいたい十頃になると里子に貰われていくんだが。佐月は子供たちが心配だからって、ここに残りたがったんだ」 幼い子が団扇の古い紙を剥がすのを手伝ってやる佐月を、辰之介は目を細めて見ている。その顔は、自慢の弟だ、と言っているような気がした。 そのとき、突然少年が外から走ってきて、大声で叫んだ。 「これから律さまの揚屋入りだって! 見に行こうよ!」 部屋中がわっと湧き上がって、皆一目散に駆け出していく。子供が集まるとまるで嵐だ。部屋にはもう千鶴と佐月と辰之介、そしてずっと辰之介の足にかじりついている子しか残っていない。 いや、まだ残っていた。少年が一人、部屋の隅で座り込んでいる。 ぽつんと残された彼は、真剣な、しかし冷めきった顔で黙々と草履を編み続ける。 「行かないの? 皆もう行っちゃったよ」 「くるなっ!」 千鶴が声をかけて歩み寄ると、少年は一瞥もくれずに言い放った。 「襟巻は淫売だから、近づいたら悪いものが伝染るから、一緒にいちゃだめだって、おっかあに言われた。だからお前にも、律って奴にも近寄らない」 「…………」 生々しい言葉の刃が千鶴に突き刺さって、思わず言葉が出なかった。 すぐに辰之介と佐月が彼を咎めようとしたが、それより先に辰之介の足元にいた少年が怒りを露わにする。     
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