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「お前、あんな優しい律さまよりも、自分を捨てたおっかさんのこと信じるのかよ」
「捨ててない!」
悲痛な声だった。手に持っていた草履も取り落として、目に涙をいっぱいに溜めながらなおも叫びつける。
「おっかあは俺を捨てたりなんかしない……ここの門で待っていなさいって言われたんだ。用事が済んだら迎えに来るからって。絶対迎えに来てくれる!」
「ひと月も迎えに来ない親がいるかよ。捨てられたんじゃなかったらおっかさんは野垂れ死んでるに違いないや!」
「二人共、やめなさい」
今にも揉み合いになりそうだった二人の間に佐月が入る。辰之介の足元にいた子をひょいと抱え上げて、くるりと向き直った。
「じゃあ、太一、お前には留守番を頼むよ。あとで話そうね」
太一と呼ばれた少年は、返事もせずにまた草履を編み始めた。
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