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8章
千鶴と辰之介は、並んで桜花街の道を歩く。
二人の少し先では、先程喧嘩した子が佐月に肩車をしてもらっていた。あまり浮かれては見えないところから察するに、説教をされているのだろう。
「悪かったな、嫌な思いさせて」
「ううん、大丈夫。あの子も……傷ついてるんだろう。仕方ないよ」
嘘だった。淫売という言葉が、昨日の夜のことを思い出させて千鶴の胸を貫いていた。九重である辰之介と体を重ねる悦びにうち震えていたのは、たしかにこれまで知らなかった千鶴の本性だ。
「まあな……。あいつはひと月前に来てからずっとあんな調子でな。大抵の子供は律の顔見たら夢見たみたいな顔してニコニコするのに」
軽口のように言うが、心配しているのだろう。何か色々思うところがあるような目をして、ぼんやりと空を見ている。
「律のおかげで桜花街ではほとんど無いんだが、一歩外に出ると嫌な目で見てくる奴もいるから……」
「……ねえ、九重は、そういう扱いを受けたりすることって無いの?」
辰之介は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに、律か、と呟いた。
「うん、律さんに教えてもらった。まずかった?」
「まずかねえけど、さ」
困ったように頭を掻く。
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