8章

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「そうだな……。襟巻みたいに、あわよくば食ってやろうって狙われることはねえな。九重だっていうのをすぐに察するのは襟巻だけだし、襟巻以外への力ってのは、なんだかよくわからねえがこいつは他と違う雰囲気だ……って思われるくらいのもんだから」 辰之介は遠くを見て、思い出すようにぽつりぽつりと話しだす。 「ただ、他と違う雰囲気だってのを感じて、それを嫌がる奴もいた」 経験があるかのような口ぶりが気になった。 「……昔、そういう扱いをされた?」 「……まあな……お前のことも散々聞いたんだから、俺が話さないわけにもいかねえか」 辰之介が言うことには、彼の生家はそれなりに禄を取っている旗本家の傍流だった。本家との格の違いは歴然と現れていたものの、数ある分家の中でも関わりの深い家で、辰之介は特に同じ年に生まれた本家の跡継ぎの相手をよくさせられていた。 しかし、勉強でも、剣でも弓でも、独楽遊びでも、なんでも辰之介のほうが跡継ぎより上手くにできてしまった。 「そのへんで、皆気づいた。どうやらこいつは九重ってやつなんだ、と。生まれが本家だからってでかい顔をしてた奴が、生まれながらの性質で勝てないことなんて認められなかったらしい。俺を、俺の家ごと遠ざけるようになった」 そして彼の家族は、本家筋から避けられ不遇の家となった責任をすべて子供に背負わせ、放逐した。     
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