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「清右衛門さまも、いらっしゃっています」
権造がそう言ってすぐに、道の脇の妓楼からまた知った顔が飛び出してきた。
「権造! 千鶴と言った、か……」
父の、清右衛門だった。
はたと目が合った。焦りを含んだ清右衛門の目の色が、千鶴の首元に巻かれた布を見て、またさあっと驚きに変わる。慌てた顔など、初めて見た。
「父、様」
千鶴の記憶の中ではいつも厳格だった父の姿は、街中が派手に彩られた桜花街とは、笑ってしまうくらいに不協和だ。
「なんで。店は……」
「伊津に任せてきた。帰るぞ」
仕草だけで権造に促し、千鶴を立ち上がらせる。体中が痛いのに引っ張られて、思わずうめき声が漏れた。
「つっ……ま、待って、待ってってば」
「賊に攫われるなど、おつらかったでしょう……先程は申し訳ございません。体は痛むでしょうが、少しご辛抱ください。一刻も早くここから離れましょう」
よろよろともたつきながら進むが、二人は待ってくれない。痛みを抱えながら歩くのは想像以上につらく、権造の気をそらそうと千鶴は必死で話しかけた。
「ね、権造、どうやってここがわかったの」
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