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辰之介は何も言わずに、千鶴の肩に触れる。千鶴はその手に自らの手を重ねた。
幼い日に蔵の中で叫んで以来、ずっと怖くて出てこなかった言葉を、千鶴は体に感じる辰之介の温かみを感じながら、決死の思いで絞り出した。
「……どうして、おれを閉じ込めたりなどしたのですか」
問いかけに、清右衛門は権造を制止して一歩踏み出す。
そして、静かに答えた。
「その様子だと、自分が襟巻ということもわかったのだろう。……襟巻にとって外は危険だから外に出さぬほうがいいと医者に言われて、その通りに従った」
その表情はあくまで冷静である。常日頃から見た――いや、近頃は見ようともしなかった顔だった。
千鶴は辰之介の手をぎゅうと握って、勝手に折れそうになる心を奮い立たせて言葉を続ける。
「じゃあ、なぜ……なぜ、理由も教えてくれなかったのですか。大きくなればって、それだけで、おれは何もわからずに六年も……き、きらわれているのかと、思い、ながら、過ごして」
言う間に涙が溢れる。さっきからずっと泣いていて、もう涸れてしまいそうだと思うのに止めどなく頬を濡らしていく。
「答えてください」
清右衛門は溜息をついた。
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