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呆れられたのかと思って、びくりとする。やはり嫌われているのか、辰之介が言っていたような、千鶴のことを考えていたはずだという言葉も、ただの楽観的な夢だったのか、とも。
喉が震えた。
しかし、少し皺が刻まれた清右衛門の口から出たのは、予感したよりもっと悲しげな声だった。
「原因がお前の体にあるということを……気に、病ませたくなかった。そうすれば自分を恨むしかなくなってしまうだろう。しようのないことなのに、それはあまりに虚しいと思った」
ぽつりと漏れたその声に、千鶴は目を瞠る。
「それなら、気が触れた親の濫行だと思って私を恨んでくれたほうがまだ良いと思った。……たとえ婚姻先が見つかるまでの間のことだとしても、きっと、もっと良い手があったはずだ。それを見つけ出せなかったのは、私のせいだ」
――お前のことをどうしたら一番いいのか考えて……ちょっと考えすぎたんだろうな。
辰之介の言葉が思い起こされる。考えすぎた結果が、子に自身を憎ませないために、親である自分を代わりに憎ませようとするという術だったとは、露とも思わなかった。
胸の詰まりが、いくらか流れ落ちていく。
「父様。最後にあと一つだけ、聞かせてください」
自然と足が動いていた。一歩、二歩、前に踏み出し、清右衛門の手を取る。
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