終章

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千鶴は辰之介の頬にそっと触れた。 「辰は優しいよね。盗みをやってたのだって、長屋の子供たちのためでしょう」 「あ、佐月が何か言ったな」 察しがいいところも好きだなと思ってしまって、どうしようもない。 「俺なりに気は使いながら盗みをやってたんだぜ。目立って繁盛してるところしか狙わない、商売道具は盗まないとか。……まあ、それでも盗みは盗みだからな。きっと地獄に落ちるさ」 「おれ、なんとか閻魔様にお願いしてあげるよ。だから、辰が死ぬまで、一緒にいたい……いつ死んだかわかんなきゃお願いもしづらいからさ。俺が先に死んだら、三途の川のところで待っててあげる」 一生を添い遂げたいという熱烈な求愛 「でも、律さんに怒られちゃうかな……」 それなのに、辰之介は妙な顔をした。 「律? なんで律が出てくる」 「だって、佐月が、辰と律は付き合ってるんじゃないかって……二人共すごく仲がいいし、そういうことなのかなって、てっきり……それに」 また目が潤む。泣き虫だと言われたばかりだからなんとか止めたいのに、このままだと感情と一緒にあふれてしまう。     
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