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「忘れろって、言ったから。あの夜のことは九重と襟巻の性のせいだから、なかったことにしたいのかなって、思ってた」
千鶴の言葉を聞いた辰之介は、呆然として頭を抱えた。髪をくしゃくしゃにして悶え始める。
「いやいやいや……いや、俺のせいか」
突然がばりと起き上がるので、千鶴は驚いて飛び上がった。
「あのな、忘れろって言ったのは、何も知らないお前に嫌な思いをさせちまったかと思って……」
辰之介はいつになくしどろもどろで、言葉にしきれないのか、ああもう!と叫んで千鶴の肩を掴んだ。
真正面から、あの日見た強い光で射抜かれる。
「俺がお前を連れ出したのはな、そりゃあ俺と同じように九重やら襟巻やらの性に悩まされてたから、同情したってのもある。でもそれ以上に……お前の涙が……泣いてる顔が、すごく綺麗で。それで攫っちまいたいと思ったんだよ」
固く、抱きしめられる。大好きな辰之介の体温に包まれて、頭が真っ白になった。
「好きだ……千鶴。この気持ちを、九重と襟巻の性のせいにしたくなくて、言えなかった」
だから、忘れなくていい。忘れるな。
そう囁かれて、絶対に忘れるものかと思った。
どちらともなく、愛を確かめるように口づける。
軽く、啄ばむように互いの唇で触れ合っていく。
「……なあ、口、開けて」
言われるままに唇を開くと、辰之介の熱い舌が忍び込んできた。
「ふあ……」
唾液まで絡められようかという巧みな動きに、千鶴はたどたどしく、懸命に応える。しかし敏感な上顎を触られるとすぐにぐずぐずになってしまって、崩折れてしまいそうな体をなんとかしようと必死で辰之介の首に手を回した。
「ん、うっ」
辰之介の手が胸をかすめて、布越しなのに思わず声が漏れた。
「千鶴……ここ、感じるのか?」
辰之介は千鶴の着物の袷に指を入れて、尖ったところを撫でる。むず痒いような感じがして、千鶴はいやいやと逃れようとした。なのに、辰之介が背中を抱くから密着したまま逃げられない。
「ん、や、へんなかんじ、する……から」
「変? これも、変か?」
指の腹で撫でるだけだったそれを、爪で軽く引っかかれて悲鳴が出る。思惑通りの反応だったのか辰之介が意地悪そうに笑うのを見て、背中がぞわぞわした。
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