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すると意外にも考え込まずに、すぐ言葉が出てきた。
「確か暖かい日でした。駅で5年ぶりに偶然会ったんです。会いたいときには一度も会えなかったのに、何もないときに、ふらっと会ったんです」
思わず笑ってしまった。今日もまさにそんな日だ。
「一方的に大好きだった、1度も好きとは言えなかった人。違うな、好きって1度も言わせてくれなかった人。本当のことを言うと電車から降りて改札に向かう途中、たくさんの乗客の中あの人に似た後ろ姿を見つけたんです。一瞬、あの人が横を向いたんです。気付いた時にはあの人のこと追いかけてました。
「お久しぶりです。覚えてますか?」ありったけの勇気を出して、私から声をかけたんです。あの人は初めは私を誰だか分からなかったみたいです。少し会話をしたら、ようやく思い出したようでした。簡単に近状報告も終わり、呼び止めてしまったことを思い出して、立ち去る挨拶をしようと思った時でした。突然あの人は「今から時間ある?」と言いました。初めは何を言われたのか、理解できませんでした。今度は「このあと予定あるの?」と聞かれたので、私は首を横に振りました。「じゃあ近くのカフェに行こうか」と改札を出てコーヒー専門店に向かいました。その時の私はドキドキとそわそわで心臓音が周りに聞こえるんじゃないかと思いながら、主人の帰りが嬉しくて仕方ない仔犬のようにあの人の後についていきました。
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