紫苑

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もらった彼の音楽は、私の心のチューニングにぴたりとはまったようだった。「頑張っているんだ」言葉が部屋の中に現れ、誰からの返答もないまま消えていった。何気なくネットで彼の音楽を探した。スマホに彼の名前を入力して、検索ボタンを押す。30件くらいの動画が検索され、私はひとつひとつ音楽を聴き始めた。彼の音楽は、ラブソングが多かった。おとぎ話のような歌、壮大なテーマのある歌、心をえぐられる悲しい歌、そして幸せな歌も。彼の音楽は、風景描写が綺麗かつ鮮明に脳裏に浮かび、目を瞑ると主人公が勝手に動き出した。それはまるで読書をして妄想を膨らますことに似ているような気がした。ただ彼の曲は私の嫌いな英語訳の曲が多かった。それでももう一度彼の音楽が聴けないだろうかと数日HPをチェックし続けた。スケジュールが更新され、近々LIVEがあるようだった。そこは最寄駅の地下鉄に乗って、3つ目のところにあった。とにかくLIVEに行ってみよう、そう意気込んで、私はスマホのカバーを閉じた。
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