紫苑

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それでも彼のLIVEがあると、私は何度かLIVEハウスや以前行ったカジュアルバーに足を運んだ。演奏後、きまっていつも遠くからファンと話す彼を盗み見て帰った。ウジウジする自分が嫌で、いつも今日こそは話をしようと意気込むものの、なかなかうまくいかなかった。 でも今日は何かが違った。彼はバーの後ろの方で1人で手作りのCDを売っていた。珍しく彼のファンがいないようだった。私は勇気を出して彼に近づいて話しかけた。何度も何度も自分の中でシュミレーションをした会話を話した。 「先日、ここであなたのピアノを聞きました。それ以来すっかりあなたのファンになりました」 彼は丁寧に対応した。 「わざわざありがとうございます。とても嬉しいです。また今度LIVEをするのでお時間あれば」 笑った目元が優しくて、すごく嬉しくなった。 「はい。よかったら、サインや写真いいですか?」 「もちろん、いいですよ。お名前は?」 CDとスマホの写真は、私の宝物になった。毎日彼の音楽を聴くと無性に彼に会いたくなった。ついにはここ数日、夢にも出てきた。この前確かLIVEがあると彼は言っていた。 「またLIVEに行こう、また直接話ができたらいいな」私はそんなことを考えるだけで幸せな気持ちになっていた。
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