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第2章:就職氷河期とブラック企業での洗脳
俺は、1978年生まれの39歳だ。
すぐ上の団塊ジュニア世代ほどではないが、今の20代よりも受験戦争はずっと熾烈だった。
だから、なんとか上智大学の外国語学部に受かったときは本当にうれしかった。
だが、俺が卒業した2000年は、大卒求人倍率が史上最も悪い年だった。
慶應卒でも50社中1社しか面接に呼ばれなかったり、市役所の大卒募集3人に対して5000人が応募したと言われたほどの就職難。
父は、俺が大学2年のときに亡くなった。
卒業までの授業料は貯金と生命保険で何とかなったが、専業主婦だった母にこれからは恩返ししたいと思った。
だから、どんな会社でもいいから入りたい。もし入れたら、何をしてもしがみつく。
その一心でどうにか、ある外食産業に入社できた。
だが、それからが地獄だった。
いや、正確に言うと、地獄を天国と洗脳され、倒れるまで「自分は望んでこの天国にいるのだ」と思っていたのだ。
新人研修の二週間、携帯と財布を没収され、合宿所から出られなかった。
グループに分けられ、分厚い社訓を暗唱させられた。一人でも、間違えたり声が小さかったりするとやり直し。
「声が小さい! 心が込められてない! 恥ずかしがらずに、もっと自分をさらけ出せっ!」
全員が合格するまで、食事も睡眠も取れなかった。
暗唱させられた社訓の出だしは、今でも言える。
「人は、お金のために生きるのではない」
「仕事は、お金のためにするのではない」
「仕事は、お客様に感動を与えるためにするものである」
「感動さえあれば、お金がなくとも生きていける」
「お客様と仕事、そして会社に、感謝と愛を」
「仕事を与えてくださり、成長させてくださる会社に感謝を」
「感謝に報いるため、24時間365日、笑顔で死ぬ気で働きます」
……
逃げ出す者が出るたびに、彼らの悪口をグループの皆で言わされた。
「やる気と根性が足りない」
「尻尾を巻いて逃げ出した、無能な負け犬」
「二度と正社員になれない、社会の底辺」
そして、社員がこう締めた。
「残された君たちは、この試練を乗り越え、私たちとともに世界を輝かせる、選ばれし者だ。辛くなったら、今日逃げた負け犬がどんな末路をたどるか想像してみるといい。きっとまた、やる気に満ちてくるだろう」
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