第3章:長時間労働の末の、理不尽な面接

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そうして迎えた、店長への昇進試験。 そのうちの一つに、本人には知らされずに店内での接客を隠し撮りされたビデオを見ながらの、社長との一対一面談があった。 「……店長からは、君が先月の寄せ鍋キャンペーンでも売上に貢献したと推薦文をもらっているけど」 社長はそこで言葉を止め、しばしの間、俺の接客の様子を映したビデオを見ていた。 「君の笑顔、気持ち悪いね」 俺は、予想もしなかった言葉に、とっさには何も返せなかった。 「痩せすぎだね。自己管理できてない」 「……もっ、申し訳ございません。ですが、社長がビデオレターで『営業時間内に飯を食う社員は二流』と仰っていたのに深く感銘を受け、営業時間内に食事をしないようにしていたものですから」 「勤務時間内に飯を食わないで働くのは当たり前。それでも、お客様に不快感を与えないよう自己管理して、やっと『普通』の社員のレベルなの」 「閉店作業が長引いたり、早朝や午前中の研修で、なかなか家にも帰れなかったものですから、誠に申し訳ございません」 「君、だめだね。食べなくても、自分の時間がなくても、会社への感謝で気力がみなぎっていれば、やつれたりしないよ。君には覚悟が足りない。笑顔が気持ち悪いのと口答えしたのとで、減点だね」 結局、昇進試験に落ち、店長にはなれなかった。 いま思えば、あれは圧迫面接だ。どんなに理不尽なことを言われても、反論せずに謝罪する者しか、この会社では店長になれなかったのだろう。
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