定年間近の鎮魂歌

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* 家から持ってきた新聞の今日の占い欄に、自然と目が止まる。 どうやら、今日はうっかりミスに注意しなければならないらしい。 確かに、昨晩はアクシデントにより、臨時業務を長時間こなしていた為に寝不足だ。 「……秘密結社?」 彼にしては珍しく素頓狂な声をあげるものだから、ついつい口元が緩んでしまった。 「だってさ、相手がそう名乗ってたんだもん」 普段はポーカーフェイスでとおしている彼の間の抜けた顔を見るのは、ヘタなお笑い番組を観ているより笑える。 昼休み。 道頓堀君は今週から松山へ出張に行っているし、鬼頭君は松山から道頓堀君の代わりに来た福沢君をランチに誘って外へと出かけている為、現在色公課にいるのは私と綾小路君の二人だけだ。 妻依子の愛情があるんだかどうだか分からない弁当を食べた後、私は愛用のボカロのマグカップにコーヒーを入れて啜っている。 私の名前は金剛寺盆吉。 高知市役所内にある、この四国八十八ヶ所環境対策保全課ーー通称色公課の課長だ。 綾小路君は外に出るのが億劫だったのか、それとも鬼頭君にランチに誘ってもらえなかったことがショックだったのか。 不機嫌そうな顔で置いてあったカップ麺を食べた後、例のごとくパチスロ攻略本を読んでいる。 普段そんなに彼と世間話をする訳でもないが、昨日の出来事を自分の胸だけに留めておくのも何だか消化不良チックだったので、それとなく伝えてみたのだが。 「そんなもの、今時存在するんですか?一昔前とかネットの中での都市伝説くらいなら、まだ納得も出来ますけど」 見事なまでに機嫌悪し、だ。 「まぁ、そもそも秘密結社なんて、存在自体が明るみになっちゃいけないものだからね。今の時代だって、探せばゴロゴロあるとは思うよ?私の場合は別に探して見つかった訳じゃないんだけどね」 そう、相手が消える直前に言ったのだ。
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