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成り行き
ワガママで事務所もファンもブイブイ言わせた俺なんかより、もっとすんげえワガママ抱えて虹心は生まれてきて、今を生きている。めっちゃ偉そうな名前の幼稚園に入れたけど、「来世の記憶」とかなんかで、一週間もたたずに追い出されてやんの、あいつ。要は幼稚園の「権威主義」とかに、めっさ反抗的だったからだって、妻に愚痴られた。そりゃな、来世の記憶なくても、俺らの子だぞ。しゃあねえじゃん。だからインターナショナルなスクールに入れなおして、今はかなりおとなしくやってるそうだ。おのれ自身に真面目にんげんだもの。
んで、このめんどくせえが超かわいい娘の来世探しも、俺らの仕事になった。
アイドルはコンサートで地方巡業あるし、ドラマとか映画の撮りでもあちこちいけるし。だから俺は、ファンサをめっちゃやった。いきなりたくさんのオリキっつー追っかけが待ってるとこへわざと出ていって、パニックになるようにしかけたりした。そん中にいるかもしんねーし、俺がニュースとかになればなるほど、虹心の来世に届くと思って。
けれど俺の努力はあんまり報われず、それらしいの、見かけることはなかった。
だけどある日、パニックになった妻に呼ばれて地方から焦って帰って、虹心がリビングの天井近くに浮いてたときにゃ、あんまり酷くて逆に笑いが出た。妻には怒られたけど。
俺はとっさに、映画の「陰陽師」の真似してた。なんか九字とかいうの哲也に習ってたから、それも必死に思い出しながら。紫と灰色の雲っぽいのが、浮かびっぱなしの虹心を囲んでて、正直、足がガタガタして立ってるのもやっと。頭ん中で、キモい何かがしゃべって、そりゃ、マジ酷かった。逃げたくなったけど、また頭ん中で、違う誰かがしゃべってきた。
「おとうさん……たすけて」
って。虹心は、俺のことはパパって呼ぶ。「おとうさん」なんて、本当なら呼ばない。
あの大震災の慰問で行った先だから、きっとあの地方にいるって、あとでその件を報告したら、哲也に言われた。
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