chapter1

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 脳をとろかせる甘いささやき。 「……翠」  温度の低い手に胸元を弄られて体が大げさなほど震えた。  自身の体温とは違う驚きもあるのだろう。反射で肩を竦めると、シルクのシーツが擦れる音に芳の笑い声が混じる。  身じろいだせいで首元を覆う皮の首輪がひっかかり、擦れるような痛みを覚えた。表面をなめしてあるとはいえ、隙間を作らないように設計してあるので仕方がない。  乳輪の周りをくるりと一撫でされるだけで突起が尖るのがわかった。照明でほのかに浮かび上がる体を、芳の大きな手のひらが摩るように触る。  ふいに芳が寝室のインテリアに拘っていたことを思い出した。確かに本人らしい品の良い家具ばかりだが、名の通り緑色が好きな翠のためにか、ヘッドランプの色はくすんだオリーブだ。それに気付くと居たたまれないような気になってしまう。  心臓の上に手が当たる。芳の彫刻めいた指が蠢くと、くすぐったさの中に少しの快感が混じった。色づいた突起の主張がいよいよ激しくなって、翠の仰向けの首元に顔を埋めていた芳が、喉の奥で楽しげに唸る。 「期待してる?」  そそり立つ場所には直接触れず、猫が爪研ぎでもしているかのように胸板をもてあそぶ。そうされるだけでたまらなくなって、翠の腰はひくりと引きつった。  あまり爪を立てられては痛いと思うのに、火照り始めた体にはその痛みさえ呼び水だ。そのまま、鎖骨、首と、本当に猫がするいたずらのように不埒な爪がうごめく。 「んっ!」  爪で刺激された場所を、今度は濡れたものが追った。ぴちゃ、という淫らな水音に煽られて、自然と高い声が零れ出る。  翠の乳首は痛いくらいに尖って、触れられるのを待っていた。視線を下ろすと、芳の端正だが今は意地の悪い顔がある。舌を出して、少し顔を下ろせばくわえられそうな位置で翠の乳首を見下ろしている。  薄暗い中にいても、芳の派手と優しさが見事に調和する顔立ちは変わらなかった。柔和に垂れた目元、高い鼻に広角の上がった口。見せつけるように赤い舌が伸びるのを認めた呼吸は緊張で荒くなる。
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