chapter2-2

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 校舎裏に一本だけ目立つように立っているケヤキの木は学校が創立した時に植えられたもので、樹齢は八十を過ぎている。太い幹や、枝分かれした先の数々の葉からもその貫禄が窺えた。  幾度も剪定されて整えられたどっしりとした佇まいは学校のシンボルとして相応しいと言えるだろう。  薄墨色のブレザーの尻部分が土色に染まるのにも関わらず、その木の根元に狩野は座り込んでいた。周りには菓子パンの袋が二つとミルクティーの紙パックが転がっている。  暑さを呼び起こすようなセミの鳴き声のために、暦の上では秋だというのにその気配は全くない。これから成長期が来るのだろう、手足が細長い、まだアンバランスな腕が捲った袖から覗いている。  翠が目の前に回るとちょうど影になり、狩野の上にかかった。すると彼がうっとうしそうに顔を上げ、色素が少ない瞳とかち合う。  虹彩の周囲の色が薄く、黒目部分が大きくて、どこか人なつっこい印象を与える顔だ。だが、たいていは不機嫌そうに口端を下げており、態度も相まって取っつきにくい。  さらに、今は唇から頬にかけての傷のせいで近寄りがたい雰囲気さえ出ていた。さすがに口に出すことはないが、せっかく綺麗な顔なのにもったいないと思ってしまう。 「昼食は済ませた?」 「……ふん」  返事かどうか怪しいそれは相変わらず無愛想で、言葉のキャッチボールになっていない。とはいえ、他の教師では反応すらないらしく、翠はまだましなのだろう。 「いつも甘いパンを食べてるよな」  狩野の傍らにはりんごのデニッシュとチョコチップメロンパンの袋。食べ物も飲み物も甘いものでは栄養が偏りそうだが、この年代の少年に何を言っても無駄というものだろう。関係が築けていないのに口うるさくしては、返事すらなくなりそうだ。
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