chapter3

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 この世界には、はるか昔からあった男と女という性のほかに、特権階級のアルファ、中流階級のベータ、下層階級のオメガという三つの性が存在する。数の比率は二対七対一といったところで、アルファとオメガは数が少ない。  三つの性は生まれた時から決まっているのが普通で、覆ることはないと言われている。  それぞれの特徴として、アルファは他の性に比べ頭脳も身体も先天的に優れているとされるため、自然と人を束ねる職業や社会的に地位のある職業に就きやすい。ベータはごく一部のものがアルファと同じように特権階級になることはあるが、たいていは一般職に就く。下層と呼ばれるオメガは、月に一度、女性の月経のように定期的に起こる発情期と呼ばれるものがあり、そのせいで昔はろくに働くことができなかった。今は発情期抑制剤が開発され、多少の副作用はあれど仕事はできるため、ベータと同じように過ごせるが、かつての名残として未だに下層と言われることがある。  翠は生まれながらのオメガだった。両親ともにベータの人間からオメガが生まれる確率は約三パーセント。けして高い数字ではないように思うが、百人の子どもがいたとして、そのうちの三人がオメガというわけだ。当事者からしてみれば、少ないとは言えない。  だが、あまり機能が高くないと言われるオメガにおいて、翠はできすぎるほどに勉強ができた。日本で一番偏差値が高い大学の入試に合格したオメガは今なお二十人に満たないが、翠はそのうちの一人である。  芳は大学の同級生であった。特権階級のアルファの、さらに一握りの極上のアルファ。顔も、体も、頭だってとびっきりの男だが、翠に最初に声をかけたのは「顔が好みだったから」という理由らしい。それが理由になるかどうか、ましてや本気だったのか疑問を持ってしまうけれど。  最初はなし崩しに体の関係を持った。頭の回転がよく、話題も豊富な芳と酒を交わすのは楽しくつい飲み過ぎてしまい、朝気づけば裸でベッドに並んでいたという状態で本意ではなかった。  それ以来、体だけの付き合いが続いている。
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